進学塾ism

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講師ブログ

 こんにちは,高校数学担当の森蔭です。
 大学入試センター試験まであと1ヶ月となりました。ISMでも高校3年生の顔つきが変わってきました。いよいよ臨戦態勢です。私は毎年この時期になると,そんな彼らにかける言葉に戸惑いを感じてしまいます。
 ISMが開校してもうすぐ15年を迎えることになります。これまでに沢山の子どもたちと出会い,彼らを次の社会へと送り出してきました。一人ひとりとの思い出は今も思い返されますが,その中で私には決して忘れることのできないひとつの記憶があります。
 彼女は中学時代に他県から三重県に移ってきて,中学3年生のとき高校受験のためにISMに通い始め,そのまま高校3年生までISMで一緒に学びました。大学受験期になり,高校3年生のこの季節の受験校決定3者面談の時期がきました。しかし,その3者面談の前に,相談があるから聞いてほしいと彼女から申し出がありました。話を聞くと受験校のことで保護者の方と合意できていない,特に私立大学の受験を許してもらえないとのことでした。そのことを踏まえて私は3者面談に臨み,そこでは彼女の気持ちを代弁するように,受験生の不安への理解をお願いしました。保護者の方からは,ご家庭の事情で国公立大学に行ってほしいが,3者で話したことで娘の将来への強い気持ち,受験生特有の心情がわかったとの言葉をいただきました。ただ,受験校についてはもう一度家に持ち帰って話し合うことになりました。
 数日後,明るい顔で彼女がやってきて「大学受験はせずに専門学校に進む。」と私に報告をくれました。私は非常に驚きました。ここまで頑張ってきたのだから,第一志望の国立大学が届かなくても,やりたいことのできる他の国公立大学を一緒に探すことや,再度の3者面談についても提案しました。しかし,彼女は私のそれらの提案を断り,「一緒に話し合って自分で決めたことだから大丈夫。」と言いました。
 そんな彼女は,大学受験をしないにもかかわらず,最後までISMの仲間と勉強したいと言って,卒業まで勉強を続けました。センター試験の直前には,皆は忙しいからと,ひとりで京都の北野天満宮まで行って,ISMのクラスメイト全員に合格お守りを買ってきてくれました。
 そして3月の卒業パーティーの帰りに保護者の方がわざわざ挨拶にこられました。私は3者面談で保護者の方の事情も顧みず,一方的に彼女を応援するようなことを言ってしまった非礼を詫びました。しかし逆に保護者の方から,大学受験はしなかったが,それに向かってISMで学べたこと,沢山の人と出会えたことのお礼の言葉をいただきました。
 そして最後に,「先生,私は専門学校の試験から帰ってきた娘に心の底から,おかえりって言えました。」と言われました。私はこの言葉を一生忘れません。
 大学受験に向かう子どもたちに対して私がかけるどんな応援の言葉よりも,大学受験から帰ってきた子どもたちに対して私がかけるどんな労いの言葉よりも,私が知るかぎり,世界中でもっとも強く,もっとも優しい言葉があります。
 「おかえり。」
 黙って見守り続けるという大きな覚悟。保護者の方はすべてを飲み込んで,受験生にこの言葉をくれるのだと思います。あの頃の彼女のように。
 受験生の皆さん,だから安心して行ってきてください。私も皆の帰りを待っています。

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