講師ブログ
2011年10月27日
書き換え問題は適切な設問形式か
高校英語担当の磯和です。今回は英語の書き換え問題について触れたいと
思います。
英語の教科書・ワーク・テストの問題にきまって書き換え問題や2文が同
じ意味になるように空欄に語を入れさせる問題があります。その典型が能動態
を受動態に書き換えたり、第4文型を第3文型に書き換えたりする問題です。こ
の手の問題形式は形を変形させても伝える意味は変わらないという意図による
ものなのでしょうが、実際は形が変われば意味に違いが生じます。このことを
理解せずにただ機械的に書き換えたりすることは英語教育が目指す「コミュニ
ケーション」レベルの英語の適切な運用とは大きくかけ離れているように思え
てなりません。従って、書き換え問題は英語の力を図る適切な問題形式とは言
い難いといえます。
アメリカの言語学者、ボリンジャーは『形式と意味』という書物の中で「形
式が異れば意味も異なる」という視点から従来取り上げられてきた多くの文法
や意味に関わる現象を見直し、現在の言語研究に大きな影響を与えました。そ
の一例を取り上げようと思います。
① The forecast says that it’s going to rain.*下線部が名詞節
② The forecast says it’s going to rain.
①の英文の名詞節のthatはあってもなくても意味は変わらないと教わり、そう
信じてきました。①と②の英文は意味の違いがあると言われたら、何がどう違
うのかと不思議に思うのではないでしょうか。
ボリンジャーの説明では名詞節の内容(ここでは天気の話)が話題としてすでに
ある(既出)場合はthatを伴い話題として出ていない(新出)の場合(例えば、
話の中で天気の話題は触れていない)はthatを伴わないとしています。この名詞
節のthat はthe+名詞のtheの働きとよく似ています。theはすでに登場したこと
(既出)・すでに知っていること(既知)を表すのに名詞(句)の前にtheをつけ
ますが、それと同じことが名詞節の場合のthatにも当てはまるのです。
書き換えすべきではない例を取り上げてみましょう。
① I believe John honest.
② I believe that John is honest.
学校文法では①と②の英文は形式は違うが意味は同じとされています。
しかし、これらは伝える意味合いに違いがあり、本来は書き換えできるような
ものではありません。①も②も「ジョンが正直である」ということ,そして
そのことを「私が信じている」ということを述べているという点では共通です。
しかし,「ジョンの正直さを私が信じる」ということに対する裏づけが異なり
ます。①はジョンの正直な振る舞いに実際接した直接的な経験がある場合に
用います。②はジョンが正直であると信じるに足る振る舞いを直接経験したこと
はなく、第三者から聞いたことから判断する、つまり間接的な証拠に基づいて
判断した場合に用います。直接経験による判断と間接的な証拠による判断では
確信度に大きな違いがあると言えます。
最後に、不定詞と関係代名詞による名詞修飾の書き換えもよく目にしますが
違いがあります。例えば「彼は人の悪口を言うような人ではない」という英文
を取り上げます。
① He is not a man to speak ill of others.
② He is not a man who speaks ill of others.
①は不定詞が『これからのこと』を表す特徴があるので、彼はこれからは人の
悪口を言わないという場合に用います(例えば、人の悪口を言ったことをとが
められ、今後はそのようなことはしないと彼が誓ったことを知っている場合)
。②は習慣的に彼は人の悪口を言わないという場合に用います。このように、①と②の英文は全く同じ意味では実際ありません。
上記の例は形式が違えば意味が変わる一例ですが、それ以外にも
本来は書き換えるべきではないものを書き換え可能であるとする
文法項目を目にします。「コミュニケーション」レベルにおける
英語の適切な運用を目指すのであれば、意味もなく機械的な書き換え
はできる限り避けるべきであり、少なくとも意味の違いがあることを
説明することが大切だと思います。