講師ブログ
2011年1月27日
本気
こんにちは、高校数学担当の森蔭です。
先日,大学入試センター試験が行われ,今年度の大学入試本番の火蓋が切って落とされました。今回のセンター試験は全体的に昨年に比べて易化傾向にあり,そのため各大学のボーダーライン(合格可能性50%ライン)は上昇傾向にあります。しかし現実は厳しく,全員の得点率が押しなべて上昇したわけではなく,上昇した人とそうでなかった人との間には格差があります。ISMの子どもたちも例外ではなく,いつも以上にうまくいった子もいれば,そうでない子もいます。
そんな中でも下を向いている暇はありません。この後に立て続けに押し寄せる私立大学入試,国公立大学2次試験に向けての準備が始まります。センターボケしている頭をブラッシュアップし,論証力を取り戻すのは予想以上に大変です。
しかしその前に,センター試験の結果を踏まえ出願校の決定をセンター試験後2週間弱で行わなければなりません。ISMでもセンターリサーチの結果が返却された先週末から個人面談(出願校決定面談)を行っています。ボーダーラインはあくまで目安に過ぎず,その子の持つ能力の特性や志望校の配点,競争率など様々な要素を考慮して出願校を決定していきます。ここでさじ加減を間違えれば大変なことになります。お互いに真剣勝負の話し合いが行われます。
そんな中,私もある生徒と志望校決定面談を行いました。その生徒は中学生の頃からISMに通塾してくれている子で,高校でもクラブと学業を両立しようと努力してきました。高校の定期テストの結果には波がありましたが,実力は着実に付いてきて今回のセンター試験の結果も得点率80%を超えました。しかし彼には1つだけ大きな問題がありました。彼はこの段階に至っても志望校・学部が決められていなかったのです。しかし私には,それは「決められていない」のではなく,「決めかねている」だけのように映っていました。彼はきっと「医学部に進学したいのだ」と。
面談当日の朝,彼は寝不足気味のはれぼったい顔で少し遅刻気味に現れました。私は「おはよう」と挨拶だけして,席に着くように促しました。センター試験の結果をひとしきり振り返り,彼の2次力(論証力)についての考察を行った後,私は「ところで,お前はどこに出願するつもりや?」とききました。彼は「はい.名古屋大学の理学部にしようかと思っています。」と少し目線を下に向けながら答えました。その瞬間,私は「これは違う。本心じゃない。」と思い,「お前,医学部受験したいんとちゃうか。」ときき直しました。すると少し間がって,彼はパッと顔を上げて「はい。」と力強く答えました。それで全てが決まりました。私も腹から出る大きな声で「よし,じゃあやってみろ。男やったらそれでいけ。」とだけ言い,目と目を合わせました。もちろん彼の2次力からすれば,不安がないといえば嘘になります。場合よっては,もう1年の受験生活も覚悟しなければなりません。ご家族の理解も必要です。しかし,私は彼を信じてやりたかった。ここで安全策をとって怪我のないように生きる道を勧めるより,リスクを負ってでも真っ直ぐに顔を上げて生きられる道を選ばせてやりたかったのです。
昨日,彼と授業で再会しました。一点の迷いのない晴れやかな表情をしていました。
私はあらためて「本気で信じること」の大切さを教えられました。私たち教師や親が子どもを本気で信じたとき,彼らはものすごい力を発揮します。本気で信じたときだけにです。私の仕事はそれだけなのかもしれません。
みんな,ここまでよく頑張った。僕は本気で信じてるで。