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講師ブログ

高校英語担当の磯和です。今回は教科に関することに触れたいと思います。
「長文が読めません。どうしたらいいですか」という質問をよく受けます。その際、「読めない原因は何やろか。長文を読んでいる時、どんな感じなん?」と尋ねると、「単語力がないからかなぁ」、「読んでいるうちに前の内容がなんやったか忘れてしまって、分からなくなってくる」、「文が長くて集中力がなくなってくる」など実に様々な答えが返ってきます。これらの返答は長文読解を困難にする原因が一様でないことを意味し、「はい、こうすれば読めるようになりますよ」という特効薬が長文読解にはないことを裏付けています。長文読解に対する特効薬はないにせよ、長文読解を困難にする要因からその処方箋を考えてみたいと思います。
 まず、英文を読めなくする要因を考えてみましょう。英文読解のストラテジー研究の第一人者である津田塾大学教授天満美智子氏は英文読解を困難にする要因として①学習者の言語知識の不足②学習者の常識的(背景的)知識の不足を挙げています。①に関しては単語や慣用句など語彙の不足や複雑で長い英文の2点を指摘しています。このことは、長文が苦手である学習者の多く(私もそうでした)が実感していることだと思います。語彙力が乏しいため内容がつかめず、英文を分析する力がないがゆえに、複雑な修飾語句や挿入や埋め込み(連鎖関係詞など)が入った文では分析に時間をとられ、何がいいたいのか理解できなくなる経験をよくしているからです。①・②以外の要因も考えられます。英文に触れる機会の不足です。これは、①の要因から生じるものに端を発し、語彙力がない⇒内容が理解できない⇒読むスピードが遅い⇒英文に触れようと思わないという負の連鎖によるものです。模擬試験などで「時間が足りなくて、全部解けなかった。」という声をよく聞きますが、それは英文に触れる機会が乏しいものによると思われます。その他にも要因はあるでしょうが、語彙力不足と英文に触れる機会の乏しさがとりわけ長文読解を困難なものにする大きな要因だと思います。この2点を食い止める治療薬やリハビリはあるのでしょうか。
 それは多読です。なぜ多読が効果的であるかというと、二つのメリットがあるからです。一つは語彙力の強化になること、もう一つは英文を読むスピードが上がることです。多くの英文に触れると、知らない単語に出会う機会が多くなり、その分単語の意味を推測したり、辞書や単語帳などで調べたりする機会も増えます。確かに、調べるという作業は時間がかかりますが、分からない単語を調べようとせずただ読み進める場合よりも多くの語彙を習得できるはずです。また、英文に接する機会が増えると確実に読むスピードが速くなります(個人差はありますが)。Robb &Susser(1989)らの研究では、多読を授業に取り入れた場合、その生徒たちは授業以外で英語を学習する時間が普通の授業を受けている生徒の約2倍も増え、英文を読むスピードも速くなったと報告しています。
 このように多読は長文読解に対する効果的な対策だといえます。だだし、注意しなければならないのは多くの英文に触れさえすればいいというわけではありません。読むべきレベル、英文中にある知らない単語に対するアプローチの仕方、この二つを意識せずに多読しても得るものはあまりありません。ではどのようなレベルの英文に取り組み、語彙力を強化するための方法はどうあるべきなのでしょうか。
クラッシェン(Krashen)という英語教育学者は、今の自分の学力よりも少し超えたレベルのものを扱うことによって言語習得が最も効果的に進められるというインプット仮説を提唱しました。この仮説によれば、現在の学習者の学力レベルを仮に「i」と設定すると、それよりも一段高いレベルの英語教材(インプット)「i+1」を学習者が理解することによって言語習得が無意識的にすすめられることになります。例えば、単語帳で600~1000程度語彙を習得している高2生であれば今の時期からセンターの長文(第四問のグラフや第六問の長文)に、受験生であればセンターレベルよりも一段上のものに取り組むとよいでしょう。(だだし、センターレベルの英文に苦労している場合は別)。できれば、1週間に3~5題は長文に取り組みたいものです。継続的な取り組みが効果を一層高めるからです。
単語に対するアプローチですが、分からない単語があれば辞書で調べ、その単語にマーカーを引いて覚えるまで繰り返し見ることです(覚えるまで見るのですよ)。どうしても覚えられない単語のみ、単語カード(できれば大きいもの)を作ってみるのも一案です。辞書を引く時間的な余裕がなければ、問題集の解説部分に重要な単語の意味が載っていますし、全訳の中に自分の知らない単語の意味があるはずなので、それを必ず参照するくらいのことはやるべきです。ただ、読んで単語を覚えようとしても記憶には残りません。また、未知の単語にマーカーを引くだけで終わる場合や、調べてもその日本語の意味を単語の下にただ書くだけでは何の効果も見られません。ウェアリング(Waring)らの研究では、同じ単語を15~18回ぐらい目にしても、3ヵ月後にはすでにその単語の意味を忘れていると報告しています。このように、語彙習得は記憶力にも関連し、思っている以上に労力がかかることを意識することです。
今から受験の準備を始める高2のみなさん、残り数ヶ月を迎えた高3のみなさん。読書の秋。この秋ぜひ上述した方法で多読を実行してみてください。必ず効果は現れるはずですから。応援してます。
参考文献
津田塾大学言語文化研究所読解研究グループ(2002) 『英文読解のプロセスと指導』 大修館書店
白畑知彦・若林茂則・須田孝司 (2004) 『英語習得の「常識」「非常識」』
小池生夫 (1994) 『第二言語習得研究に基づく最新の英語教育』 大修館書店
Robb, T.N. & B. Susser (1989) “Extensive reading vs skill building in an EFL context.” Reading in a Foreign Language 5: 239-251

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