講師ブログ
2013年4月16日
初心忘るべからず
高校で英語を担当している磯和です。
新学期が始まりした。スタートとなるこの時期は身が引き締まる思いになります。
「初心忘るべからず」。これが今年の(も)テーマです。
広辞苑にはこのことわざの意味として「学びはじめたころの、謙虚で緊張した
気持ちを失うなの意。また、最初の志を忘れてはならないの意にもいう」
と説明されています。
実はこのことわざは、室町時代に能を大成させた世阿弥の言葉で、辞書に
ある意味だけではないようです。世阿弥の書である「花鏡」の結びに以下
のように書かれています。
「しかれば当流に万能一徳の一句あり。 初心忘るべからず。この句、三ヶ条
の口伝あり。是非とも初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の
初心忘るべからず。この三、よくよく口伝すべし」
彼の言う「初心」とは「始めた頃の気持ちや志」すなわち「初志」ではなく、
「芸の未熟さ」、つまり「初心者の頃のみっともなさ」ということだそうです。
初心者の頃のみっともなさ、未熟さを折にふれて思い出すことによってさらに
精進できるのだ、と世阿弥は説いています。そして、若い頃の未熟な芸を忘れ
なければ、そこから向上した今の芸も正しく認識できるのだとしています。
さらに続く「時々の初心を忘るべからず」とは若き日の未熟な状態から抜け出し
た後、年盛りから老後に至るまでの各段階で年相応の芸を学んだ、初めての
境地を覚えておくことにより、幅広い芸が可能になると説いています。
そして最後に「老後の初心を忘るべからず」。老後にさえふさわしい芸を学ぶ
初心があり、それを忘れずに限りない芸の向上を目指すべしと説いています。
初心者を抜け出した(うまく教えるようになった。高校(大学)に合格した。
就職した。成績が伸びてきた。などなど)としても慢心せずに屈辱感を味わ
ったことをときどきは思い出しなさい。また道に励み、そして初心者の頃から
どれだけ良くなったのかを振り返りなさい。さらに玄人の域に入った後も道に
終わりはなく、年老いても常に向上心を持ちなさいと世阿弥は我々に語りかけ
ています。
仕事(学習)と芸は同じではないでしょうが、ひとつの「道」を極めようと
した人間から発せられた言葉が、何かの「道」を進もう、極めようとする者に
とって非常に参考になる言葉だと思います。
世阿弥の教えを学んで、何事も驕らず、謙虚に自分の本分を全うする姿勢で
日々送っていこうと思います。